北海道・朱太川

朱太川_釣り人

本流にダムや堰堤のない、
豊かな生態系を育む川。

北海道後志(しりべし)地域の南部に位置する黒松内町は、国の天然記念物に指定されているブナ自生北限地帯を代表する歌才ブナ林をはじめ、その面積の80%を森林が占めている。森に降る雨は黒松内低地帯の122本もの支流となり、やがてそれらは朱太川に集まり、寿都湾に注ぐ。

朱太川の本流には、魚の往来を妨げる横断構造物が存在しない。そのため、アユなどが源流まで遡上することができる全国でも貴重な川だ。町の中心部を流れているにも関わらず、その水は源流から河口に至るまで清く澄んでおり、また、流域の貝化石の地層からミネラルが豊富に流れ出た水質は、川魚や農作物にとって大きな恵みとなっている。

決して大河とは言えない朱太川だが、豊かな生物多様性を持ち、日本でも有数の自然豊かな河川環境を持った川であることは間違いない。

日本海の寿都湾に注ぐ朱太川の河口付近。

日本海の寿都湾に注ぐ朱太川の河口付近。

街の中心部を流れる中流域でも、素晴らしい河川環境を維持している。

街の中心部を流れる中流域でも、素晴らしい河川環境を維持している。

木々が生い茂る上流域。

木々が生い茂る上流域。

数十年前から自然との
共生を掲げてきた黒松内町。

町の面積の8割を森が占める黒松内町は、世間のエコ意識が高まる以前から自然環境の保護を行ない、自然と調和する町づくりに取り組んできた。2015年6月には、2万4,000年前から存在し、日本最古の湿原のひとつである歌才湿原の所有権を日本ナショナル・トラスト協会と共同で取得し、今後はその貴重な環境の保全を行なっていくという。

朱太川が良好な自然環境を保っているのも、こうした黒松内町の長年に渡る活動があってのことだ。黒松内町では「生物多様性地域戦略」において、今後の朱太川に対する取組を示している。「河川敷を湿地に戻し、生きものが住みやすい環境づくりを検討する」「支流の砂防ダムにたまった土砂を下流へ供給するために、スリット(溝)を入れたり、構造物そのものの撤去を検討する」といった内容になっており、朱太川の自然環境を保全していこうという黒松内町の意向がはっきりと見て取れる。

環境保全が進められる歌才湿原。

環境保全が進められる歌才湿原。

朱太川流域のブナ林。

朱太川流域のブナ林。

朱太川の保全に取り組む黒松内町企画環境課の高橋興世さん(理学博士)。

朱太川の保全に取り組む黒松内町企画環境課の高橋興世さん(理学博士)。

北限のアユ。そしてサケやカワヤツメを
守っていくために。

かつては余市川や尻別川でもアユの姿を見ることができたが、近年ではその数は激減してしまった。その結果、現在では日本のアユが生息する北限は朱太川と言われている。また、朱太川には海と川を行き来して世代交代を行なう「通し回遊生物」のサケやカワヤツメ(ヤツメウナギ)、サクラマス、ヤマメ、そしてヤマメと共生して上流域まで分布を広げるカワシンジュガイなど、さまざまな生物の姿を確認できる。

しかし、治水整備による流れの直線化やコンクリートでの護岸工事によって、アシ原や湿地が姿を消したり川底に砂礫が減少してしまうなど、朱太川であっても生物の生息環境は失われてきている。

上記の通り、黒松内町では生息環境の保全のための「生物多様性地域戦略」を定めており、河川生物調査を専門とする高橋勇夫博士と共に天然アユを増やす活動にも取り組んでいる。朱太川が豊かな生息環境を取り戻すために、ウォーターズ・リバイタル・Pj.でも惜しみない協力をしていく。

朱太川のアユ。低温環境の影響か、本州などのアユに比べて脂がのった個体が多いという。河川生活では約3ヶ月程度で休息に成長&成熟する必要があり、また、ふ化後の海洋生活では生息環境の限界に近い冬期の低温を乗り越える必要がある。そのため、北限域の個体群には特殊な資質が備わっているのかもしれない。

朱太川のアユ。低温環境の影響か、本州などのアユに比べて脂がのった個体が多いという。河川生活では約3ヶ月程度で休息に成長&成熟する必要があり、また、ふ化後の海洋生活では生息環境の限界に近い冬期の低温を乗り越える必要がある。そのため、北限域の個体群には特殊な資質が備わっているのかもしれない。

支流の黒松内川にある砂防ダム。黒松内町では、支流の堰堤の改修も視野に自然環境の保全に取り組んでいる。

支流の黒松内川にある砂防ダム。黒松内町では、支流の堰堤の改修も視野に自然環境の保全に取り組んでいる。

文:堀越大輔

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